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知財活用のイノベーションで差別化を

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特許譲渡で休眠知財を収益源に!戦略的にポートフォリオの最適化を目指そう

特許は事業戦略において有用で欠かせない権利ですが、事業に用いず、休眠知財となっているものもあるかもしれません。

特許を活用せずに休眠状態にしている場合は、コストを生む負債となり資産効率の悪化を招いてしまいます。

そこで、特許譲渡を実行して他社に売却すると、負債を収益源に変えて社内の資産効率化が図れるでしょう。

今回は、特許譲渡の有用性について解説します。

特許譲渡と購入を組み合わせた知財戦略や、特許譲渡を成功させるポイントなどについても紹介します。

この記事でわかること
  • 休眠している特許はコストがかかり管理業務が必要
  • 知財の効率化や収益化に成功した知財部門責任者の事例
  • 譲渡と購入を戦略的に組み合わせて知財ポートフォリオの最適化を図る
  • 特許譲渡の基本的な手順と価値評価
  • 特許譲渡で失敗しないためのポイント
  • 特許譲渡が会計および税務面に与える影響
  • 譲渡の前に特許の利点を再活用できないか検討する

今回の記事を参考にして、ぜひ企業の知財ポートフォリオの最適化を目指してください。

目次

休眠中の特許が無駄なコストを生む知財部門の現状を把握する

特許は、自社の事業上の権益を守る役割を果たす、戦略上重要な権利です。

しかし、事業に活用せず休眠している特許は、事業上役立たないのみでなくコストを生み出す負債となってしまいます。

自社の知財部門の現状を確認して、無駄なコストを生み出す特許がないか確認するのが大切です。

休眠中の特許をそのままにする問題点として、以下の2つのポイントから解説します。

  • 知財ポートフォリオの維持はコストの発生要因となっている
  • 知財部門の人材による知財ポートフォリオの管理や更新手続きの手間も

自社の特許を見直すうえで重要な視点であるため、ぜひ自社の状況を振り返る際の参考にしてください。

知財ポートフォリオの維持はコストの発生要因となっている

知財ポートフォリオを維持するためには、多くのコストがかかります。

特許は、権利を維持するために以下の更新料を支払う必要があります。

第1年から第3年まで毎年4,300円+(請求項の数×300円)
第4年から第6年まで毎年10,300円+(請求項の数×800円)
第7年から第9年まで毎年24,800円+(請求項の数×1,900円)
第10年から第25年まで毎年59,400円+(請求項の数×4,600円)

*2004年4月1日以降に審査請求した場合

収益獲得に役立っていない特許は、以上の更新料を発生させる負債に他なりません。

知財ポートフォリオを維持するためにコストがどれほどかかっているのか、一度確認してみましょう。

知財部門の人材による知財ポートフォリオの管理や更新手続きの手間も

知財ポートフォリオを維持するためには、特許の更新料以外にもコストが発生しています。

知財部門の人員が特許を管理したり、更新手続きを行ったりするのも、れっきとしたコストです。

特許管理は、有効期限の把握や特許庁への更新申請手続きなど、さまざまな手間を要します。

企業の貴重な人材である知財部門の人件費をかけて対応しているため、コストとして考えるのが正しいでしょう。

更新料のように、目に見えて発生している費用以外にも、特許維持にはコストが発生しているという視点をもつのが大切です。

非稼動特許や休眠特許がどれほどあるのか、自社の知財ポートフォリオを一度確認してください。

知財の戦略的な譲渡は企業の未来を切り拓く解決策となりうる

特許のような知財は、譲渡の実行により企業の未来にとっての価値をもたらします。

企業にとっての負債となっている休眠特許は、譲渡により再び収益源として活用できます。

取得した特許を手放すのに抵抗を感じる企業担当者もいるかもしれませんが、企業にとって本当によい選択が何であるか、しっかりと検討するのが大切です。

特許譲渡が企業にもたらす利益について、以下の2つの点から解説します。

  • 知財をコストを生む負債から収益に変える経営者としての視点が大切
  • 特許譲渡によってキャッシュが得られリソースの再分配が可能

さらに、譲渡と混同されるケースが多い、ライセンス供与に関しても説明します。

知財を最大限に活用して、企業の資産負債の効率化を図りましょう。

知財をコストを生む負債から収益に変える経営者としての視点が大切

特許のような知財は、事業上で活用せず放置しているとコストを生む負債となります。

負債を収益に変えるためには譲渡が有効であるという視点を、経営者がもつのが大切です。

経営者の中には、過去に苦労して取得した特許を手放す決断ができないケースがあるかもしれません。

しかし、さまざまな状況が変化する事業活動の中で、特許が使えなくなるケースは多々見られます。

経営者には、いつまでも負債を抱えている状況が会社にもたらすマイナス面を把握し、収益化に向けて推進していく姿勢が求められます。

特許の譲渡は、企業にとって収益の計上につながるため、負債を整理するという視点をもって取り組んでみてはいかがでしょうか。

特許譲渡によってキャッシュが得られリソースの再分配が可能

特許の譲渡は、収益計上とともに企業にキャッシュの獲得をもたらします。

獲得したキャッシュは、他の事業活動のリソースへの再分配が可能です。

企業が注力する分野は状況に応じて刻々と変化するため、特許取得時に主要な事業であった分野であっても、時間経過や周辺環境の変遷により取り組む価値がなくなるケースは少なくありません。

注力する価値のない分野に関する分野の特許は、非稼動や休眠状態に陥る場合が多いです。

事業上使用しない特許を譲渡してキャッシュに変え、他の注力したい分野に再分配するのは、事業活動において効率性を高める有効な手段となります。

自社が注力した分野はどこであるのかを見極め、限りあるリソースを効率よく配分する視点をもつとよいでしょう。

特許譲渡のみでなくライセンス契約による実施許諾の活用も検討する

特許の譲渡を検討する際は、ライセンス契約による実施許諾についても同時に検討するとよいでしょう。

ライセンス契約とは、特許権を取得した発明について、第三者による実施を認める契約のことです。

ライセンス契約の締結により、安定的にライセンス料を獲得し収益を計上できます。

ライセンス契約は特許の実施権を実質的に譲っているため譲渡と混同されるケースがありますが、特許権自体は保有し続ける点で譲渡と異なる形式です。

ライセンス契約には、特定の1社に対してのみ特許の実施を認める独占的通常実施権など、さまざまな形式が考えられます。

譲渡の代わりにライセンス契約の締結をする際は、自社にとって最適な選択となるよう、専門家とも相談しながら検討してください。

知財の効率化および収益化に成功した知財部門責任者の事例を紹介

特許のような知財を取り扱う部署として、知財部門を設置している企業も多いのではないでしょうか。

以下では、特許の譲渡を実行して効率化および収益化に成功した知財部門責任者の事例を紹介します。

以下の3つの取り組みから、ぜひ知財整理の重要性や対応方法について検討してみてください。

  • 実質的に負債と化した知財を抱える現状を打開する重要性
  • 課題の深掘りにより売却が困難な状況を覆して社内の固定観念を打破
  • 専門家から得た価値評価の結果が会社に新たな可能性をもたらす

知財整理は、実務においてさまざまな困難や障壁を伴うケースもあります。

以下で紹介する事例を参考にして、特許の整理を検討するきっかけになると幸いです。

実質的に負債と化した知財を抱える現状を打開する重要性

某企業の知財部門の責任者であるAさんは、部門内で管理している特許に懸念を抱いていました。

知財部門の人員は最小限に抑えられているため、分担をして対応しているものの知財管理に要する業務の煩雑さが課題になっていました。

毎年更新料を特許庁に支払い維持はしているものの、実質的に事業で活用しているのは知財ポートフォリオのうち半数程度であるのをAさんは把握しています。

部門の人員への負担および会社にかかるコストの面から、知財管理における現状に課題があると判断したAさんは、現状を打開する重要性を実感していました。

課題の深掘りにより売却が困難な状況を覆して社内の固定観念を打破

Aさんが勤務する企業は、多くの特許を取得してきた経緯があり、譲渡という考え方がこれまで浸透していませんでした。

さらに、譲渡の必要性を感じる経営層が増えるものの、実際に譲渡を実行した経験が無いというのも問題になっていました。

売却の手順や過程が把握できておらず、適正価格をどのように判断すればよいか、社内でのノウハウが不足している状況でした。

Aさんは企業内の課題を把握し、どのように取り組んでいけばいいのかを検討しながら1つ1つ解決を目指していきました。

社内での特許譲渡の必要性を意識付けるために、特許維持に要する費用や手続きを経営層に説明する機会を増やす対応をしています。

弁理士などの知財専門家を起用し、適正価格を算出する考え方や売却の基本的な方法に関するアドバイスを求める取り組みも積極的に行いました。

専門家から得た価値評価の結果が会社に新たな可能性をもたらす

特許の価値評価に関しては、専門家の知見が必要と考えるのが一般的です。

Aさんも、自社内で経営層の理解を得るために、弁理士による特許の価値評価を依頼しました。

専門家に特許の価値評価を依頼すると、専門的な計算方法から客観的な結果が算出されるため、社内経営層の理解を得られるのみでなく買い手側を納得させる資料としても活用できます。

特に、Aさんの勤務先のように特許譲渡の実績がない企業の場合には、専門家を起用してノウハウを身に付けるのは有効です。

特許譲渡の経験がない状態から売却を成功させるには、専門家への相談を検討してみましょう。

知財ポートフォリオ最適化には譲渡のみでなく購入の実践も効果的

企業における知財ポートフォリオの最適化を目指すためには、不要な特許の譲渡のみでなく他社の特許の購入も有効です。

特許といえば、自社で研究開発をして特許庁に申請すると理解している人も多いかもしれません。

自社の特許は譲渡可能であるのと同時に、他社の特許を譲り受けるのも可能です。

知財ポートフォリオの最適化における購入の有用性について、以下の2つの視点から解説をします。

  • 戦略的な特許購入により必要な技術を短時間で手に入れられる
  • 特許譲渡の市場で目的に合った個人発明家や大学特許を見つけ出せる

知財戦略を検討する際に、譲渡と同時に購入についても考慮しましょう。

戦略的な特許購入により必要な技術を短時間で手に入れられる

他社の特許購入は、知財戦略において必要となる技術を短期間で入手できる利点があります。

自社で新規の開発研究を行い特許を取得するためには、膨大な時間と費用がかかります。

一方、他社からの購入を選択すると取得費用がかかるものの開発研究に要する時間の短縮が可能です。

特に、新規事業への参入において他社の特許を購入により取得するのは、ノウハウが不足している分野への進出を手軽に行う有効な手段となります。

新規に特許取得を目指すうえで、似た分野の特許をあらかじめ購入すると、知財関連の紛争を回避できる利点もあります。

さらに、複数の会社がお互いの特許使用ライセンスを供与し合うクロスライセンスの実施においても、他社の特許の購入は効果的です。

クロスライセンス契約を有利な条件で締結するため、価値のある特許は交渉の材料として活用できます。

特許購入という手段を有効に活用して、知財ポートフォリオの効率的な構築を目指しましょう。

特許譲渡の市場で目的に合った個人発明家や大学特許を見つけ出せる

近年は、特許を譲渡するためのプラットフォームなどの専門市場が活発になっており、目的に見合った個人発明家の特許や大学で研究開発された特許を容易に見つけられます。

個人発明家や大学の特許は、大手企業の特許よりも格安で取得できる可能性があります。

さらに、個人発明家や大学特許の中からは、先進的で技術上のトレンドに乗ったものが見つかるケースも多いです。

自社の知財ポートフォリオの構築を検討するうえで、個人発明家や大学の特許の活用を選択肢に加えてみてはいかがでしょうか。

自社に見合った特許を見つけるためには、同業他社からの購入のみでなく、特許譲渡市場を活用するなど幅広いリソースから探すのが有効です。

特許譲渡を成功に導くための基本的な手順を押さえておこう

特許譲渡を実行する前に、基本的な手順や流れを押さえておきましょう。

どのような種類の特許でも、譲渡に要する手順は同様です。

特許譲渡の基本的な手順を、以下に5段階で解説します。

  • 特許譲渡を開始する前に事前確認および適切な準備は必要不可欠
  • 譲渡予定の特許の市場における価値を見極めるための調査
  • 譲渡する特許に興味をもつ買い手を見つける活動を展開する
  • 譲渡する特許の売却交渉および契約提携の手続きを実施する
  • 譲渡契約後の特許庁への権利移転手続きを確実に執り行う

納得の内容で特許譲渡を実行するために、ぜひ参考にしてください。

特許譲渡を開始する前に事前確認および適切な準備は必要不可欠

特許譲渡の手続きに入る前に、事前確認および準備を十分に行うのが必要不可欠です。

事前確認および準備の内容としては、以下の3項目が挙げられます。

  • 権利状況の確認
  • ライセンス契約の有無
  • 売却の目的と方針の明確化

当該特許の期限が切れたにも関わらず更新手続きをしていない場合、権利が失効している可能性があります。

権利失効になっている特許は譲渡できないため、譲渡検討時点で権利が保持されているか確認するのは重要です。

ライセンス契約を第三者と締結している場合、特許譲渡後も契約者に権利が持続していると、買い手が自由に特許を利用できません。

ライセンス契約の状況も、譲渡実行前に確認する必要があります。

最後に、売却の目的および方針を明確にするのも大切です。

目的や方針によって売却の相手先や条件も変わってくるため、社内で意識の共有をしておきましょう。

譲渡予定の特許の市場における価値を見極めるための調査

譲渡する特許が、市場においてどれだけの価値があるのかを見極めるのも重要な準備です。

特許の市場における価値を判定する際には、主に以下の3つが鍵となります。

  • 独自性
  • 市場性および需要
  • 残存期間

他に代替が難しい独自性の高い特許は、希少価値があると判断されて高額での譲渡ができる可能性があります。

市場の規模が大きい分野の特許は、一定の需要が見込まれるため高く評価される傾向があります。

さらに、特許の価値判断としては、特許権の残存期間も重要です。

特許は、一般的に最長20年間の権利があり、権利が保持される期間が長いほうが高く評価されます。

市場における特許の価値は、譲渡価格を決定するうえでの基準となるため、準備段階で見極めておきましょう。

譲渡する特許に興味をもつ買い手を見つける活動を展開する

事前準備を終えたら、譲渡する特許に興味がありそうな買い手探しを開始します。

買い手探しの際には、業務上で取引のある同業他社に打診をするなど、自社で保有するネットワークを利用する方法があります。

しかし、自社ネットワークには限りがあり、狭い範囲での買い手探しになってしまうでしょう。

特許の買い手を探す場合、近年では特許専用の売買を仲介するオンラインのプラットフォームを利用すると便利です。

当該サイトに譲渡希望の特許を登録すると、プラットフォーム利用者からの問い合わせを受けられます。

専用プラットフォームの活用は、広範囲の企業に対して特許譲渡の可能性がある方法です。

さらに、特許を専門に取り扱う仲介業者やコンサルタントに相談する方法もあります。

仲介業者やコンサルタントは、豊富なネットワークをもっているため、適切な買い手を見つける支援が受けられます。

譲渡手続きに関する専門的な知見と経験をもっているため、手続き中に相談やアドバイスを受けられるのも魅力です。

譲渡する特許の売却交渉および契約提携の手続きを実施する

特許の譲渡先候補が決まったら、売却の交渉を行い契約締結に向けた手続きを行います。

特許譲渡における重要な関心事として、やはり価格の決定は避けられません。

価格を決定する中で交渉が難航するケースが多いため、提示した譲渡希望価格の算定方法を明確に説明できるように準備しておきましょう。

契約締結時には、価格以外にも重要な要素が多く、譲渡後のトラブルを避けるために慎重に取り組む必要があります。

契約書には、最低限以下の内容を盛り込むようにします。

  • 譲渡の範囲:特許の全部を譲渡するのか一部のみであるのかを明確にする
  • 売却後の権利関係:譲渡後も売り手側が特許を引き続き使用する契約も可能
  • 契約形態および違反時の対応:譲渡対価の支払い方法や手続の期限などを明記するのが一般的

買い手側とのトラブルを避けるため、お互いが納得できる契約を締結するのが大切です。

譲渡契約後の特許庁への権利移転手続きを確実に執り行う

買い手側と契約書を締結しても、特許権の移転は完了しません。

特許庁に対して、権利移転手続きを終えて初めて権利が移譲されるため、忘れずに申請をしましょう。

契約内容によっては、特許庁への権利移転手続きの完了を確認してから、譲渡代金の支払いが実行されるケースも多いです。

特許の権利移転には、登録免許税を納税する必要があります。

登録免許税は、買い手側が負担するケースが一般的ですが、契約内容によっては売り手側の負担となる場合もあります。

権利移転手続きが遅れると、買い手側は特許の使用を開始できないため、契約後速やかに手続きをするのが大切です。

特許譲渡時に実施する価値評価の重要性と主な手法を紹介

譲渡する特許の価値評価は、譲渡手続きの中でも重要性の高い項目です。

特許の価値評価は、譲渡価格を決定するうえで欠かせない手続きといえるでしょう。

買い手側が譲渡価格に納得できるように、適正な方法で特許の価値評価をする必要があります。

特許の価値評価に関して、以下の3つの視点を通して解説します。

  • 譲渡価格の根拠として提示して買い手側に売却額の適正性を主張できる
  • 特許の価値評価に用いられる主な手法は3種類ある
  • 外部の専門家に価値評価を依頼して信頼性の確保をするのも重要

特許譲渡を実行する前に、価値評価の重要性や手法についての理解を深めるための参考にしてください。

譲渡価格の根拠として提示して買い手側に売却額の適正性を主張できる

正確かつ信頼性のある価値評価は、特許の譲渡価格の根拠として提示できます。

買い手側の譲渡価格の適正性を主張できるため、特許の価値評価は売り手側と買い手側双方が納得するために重要です。

価値評価を行わず、根拠のない金額を提示しても、買い手側は価格の適正性を判断できません。

一方、正当な価値評価は、買い手側から安値を提示された場合における反論の根拠としても活用できます。

特に、売り手側と買い手側とで当該特許に対する価値の認識に開きがある場合には、正当な価値評価が役に立ちます。

納得のいく特許譲渡を実行するために、価値評価は確実に実施しましょう。

特許の価値評価に用いられる主な手法は3種類ある

譲渡する特許の価値評価をする方法としては、主に以下の3種類が挙げられます。

名称別称特徴
コストアプローチ原価法対象の特許を入手するために要した費用を積算して資産価値を算出する
マーケットアプローチ取引事例比較法取引市場における一般価格を参考にして価値評価を行う
インカムアプローチ収益還元法将来期待される経済的利益をもとにして資産の価値を評価する

コストアプローチは、金額を客観的に示せるのが利点ですが、将来生むであろう収益を反映させられません。

マーケットアプローチは、市場相場を根拠とするために客観性の確保ができる一方で、市場価格が存在しない場合には適用できない欠点もあります。

インカムアプローチは、将来生み出すであろう収益を価格に反映させられるため、実際の価値に近い価格を算出できるのが魅力です。

しかし、現在価値算出に用いる割引率の設定など数値に恣意性が残り、客観性の確保が難しい欠点が存在します。

外部の専門家に価値評価を依頼して信頼性の確保をするのも重要

信頼性の高い価値評価を行うには、弁理士や弁護士および会計士など外部の専門家に算出を依頼するのも重要です。

譲渡価格の決定に影響を与える価値評価に対して、買い手側は納得のできる信頼性を要求します。

利害関係から分離した第三者の計算結果は、客観性を担保するうえで重要です。

専門家に依頼すると、採用した計算方法や算出の根拠が明記された計算書が提示され、丁寧な解説が受けられます。

計算書は、買い手側に提示して譲渡価格の根拠として活用できるため、売り手側と買い手側双方が納得するうえで有用な資料となります。

特許譲渡をスムーズに進めるうえで、専門家に価値評価の依頼をするのは有効な方法です。

特許譲渡で失敗しないために留意しておきたいポイントを押さえる

特許譲渡は、契約関係における専門的な判断や買い手側との交渉などが必要になるため、難解な手続きを伴うケースが多いです。

実際の価値よりも安い金額で売却してしまうなど、手続きに失敗しても取り返しがつきません。

特許の譲渡を実行する際は、失敗を予防するために可能な限りの対策を講じるとよいでしょう。

特許譲渡で失敗しないために留意したいポイントとして、以下に2点紹介します。

  • 譲渡先の企業の信頼性や特許取得に関する意図を見極める
  • 譲渡契約書に最低限明記しておきたい事項をもれなく盛り込む

特許譲渡において重要なポイントであるため、ぜひ手続き前に理解しておいてください。

譲渡先の企業の信頼性や特許取得に関する意図を見極める

特許譲渡先の企業の信頼性を確認したり、先方の意図を見極めるのが譲渡失敗を回避する重要なポイントです。

譲渡にかかる条件がいかに魅力的であったとしても、買い手側企業の契約履行能力が欠けていると、契約違反や情報漏洩などの問題につながってしまう恐れがあります。

買い手の候補が見つかった場合は、企業としての活動内容や財務状況を確認するとともに、過去の知財の取り扱いにおける問題の有無もチェックするとよいでしょう。

特許は内容によっては重要な機密情報を含んでいる場合も多いため、譲渡する相手先が信頼のおける相手であるかを見極め、情報漏洩などの問題発生を未然に防ぐのが重要です。

譲渡契約書に最低限明記しておきたい事項をもれなく盛り込む

買い手側と取り交わす譲渡契約書には、後にトラブルに発展しないように、最低限明記しておきたい事項を漏れなく盛り込むのが大切です。

たとえば、譲渡契約書には以下の項目は必ず盛り込んだほうがよいと考えられます。

  • 譲渡対価の支払い条件
  • 瑕疵担保責任

契約書には、譲渡の金額はもちろん支払い方法や期限などの支払い条件についても明記するのが一般的です。

特許に権利範囲の不備や無効理由となり得る先行技術など、瑕疵と判断される可能性がないのを十分に確認し、瑕疵担保責任について明記しておくと買い手側に信頼感を与えられます。

契約書に記載される内容は、後に買い手側とトラブルになった場合の争点となるケースが多いため、慎重に検討しましょう。

知財に関する専門家の助言および意見を取り入れ積極的に活用する

特許譲渡を実行する際は、自社に経験やノウハウがない場合は、知財関連の専門家を起用して相談するとよいでしょう。

知財の取り扱いには、専門的な知識や判断が必要になるため、専門家の意見を取り入れたほうが失敗を回避できます。

弁理士や弁護士など知財の専門家の起用は、不明点の相談をしたり助言を求めたりできるのが利点です。

知財に関するトラブルは法的な措置に発展する場合も多いため、慎重に取り組む必要があります。

特に、社内で知財関連の知識やノウハウが不足している場合は、専門家を積極的に起用して助言や意見を求めるのが大切です。

特許譲渡の実施によって会計や税務面に一定の影響がおよぶ

特許を譲渡すると、会社の会計処理や税務面に影響を及ぼす点を理解しておく必要があります。

特許の譲渡代金は、会計上は収益として計上されるため、適正な処理を行わないといけません。

特許譲渡が会計および税務面に及ぼす影響について、以下の3つのポイントから解説をします。

  • 特許の売却益は税務上益金となり法人税または所得税の対象
  • 経済的価値の低下により会計上の減損損失を発生するリスクも
  • 適切な会計および税務処理のため専門家を適切に活用しよう

特許譲渡が会社全体に及ぼす影響について理解するのは、譲渡実施の要否を判断するうえで重要であるため、ぜひ参考にしてください。

特許の売却益は税務上益金となり法人税または所得税の対象

特許を譲渡した際に獲得する売却金のうち、利益に相当する部分が法人税または所得税の対象です。

譲渡金額全額が課税対象になるのではなく、以下の計算式で算出された部分が税務上の益金とされます。

譲渡所得 = 売却額–(取得費+譲渡費用)–特別控除(最高50万円)

特許を取得するために要した費用に加え、譲渡手続きに要した費用を売却額から控除し、最大50万円を控除した金額に対して課税されます。

売却金額が高額であった場合は、高額の税金負担が発生する可能性がある点は理解しておきましょう。

経済的価値の低下により会計上の減損損失を発生するリスクも

特許は、譲渡せずに保有し続けた場合、経済的価値の低下が影響し減損損失を発生して収支に悪影響をもたらす可能性があります。

特許は、会計上は無形固定資産に分類され、資産として保有されます。

固定資産は、取得当初に想定された価値が無くなったと判断される場合、減損損失が発生するかもしれません。

以下のような事象が確認された場合、減損損失の実施につながるリスクがあります。

  • 技術が他の新しい技術に置き換えられた
  • 当初想定していた製品やサービスが市場で成果を上げられなかった
  • 競合他社がより優れた代替技術を開発した

活用しない特許を継続して保有すると、更新コストのみでなく減損損失により会計上の負担になる点を理解しておく必要があります。

適切な会計および税務処理のため専門家を適切に活用しよう

特許の譲渡に関連する会計処理や税務処理は、専門的な処理を伴うケースが多いため、知識やノウハウがない場合は専門家に相談して対応するのがよいでしょう。

特許の譲渡に関連する会計処理の専門家としては会計士が該当しますが、特許の専門家として弁理士への相談も適しています。

会計上は損益計上に該当するものでも、税務上は該当しない場合もあるなど、判断が難しいケースも多いです。

誤った税務処理をすると、場合によっては追徴課税の対象になるリスクもあるため、正しい税務処理をする必要があります。

特許譲渡の経験やノウハウが不足していると考えられる場合は、譲渡の手続きのみでなく会計処理や税務処理の面でも専門家のサポートを受けるのを検討してください。

特許譲渡を企業の成長を加速させる戦略的経営判断と位置付ける

特許譲渡は、無駄なコストを発生させる負債整理の側面がある一方で、企業の成長を加速させるための戦略的経営判断と位置付けられます。

場合によっては、負債整理というマイナスのイメージで特許譲渡を考えている企業もあるかもしれません。

特許譲渡を、将来の企業の発展につながる前向きな取り組みとして考えるのも有効です。

特許譲渡を成長加速のための戦略的経営判断としての位置付けについて、以下の2つの視点で解説します。

  • 単なる負債整理ではなく事業戦略的な視点で特許譲渡を実施
  • 攻めと守りの両面で知財ポートフォリオの最適化を実現する

特許譲渡を将来の成長につなげるために、ぜひ参考にしてください。

単なる負債整理ではなく事業戦略的な視点で特許譲渡を実施

特許譲渡は、単なる負債整理ではなく事業戦略的な視点で実施しましょう。

使用しない特許は、更新料などコストを発生する負債となるのは紛れもない事実であるため、特許譲渡が負債を整理するという側面は確かにあります。

しかし、特許譲渡は企業の成長につながる前向きな方策として取り組むと、企業にとってよりよい効果をもたらします。

たとえば、譲渡によって得られるキャッシュを、企業として優先的に取り組むコア事業に振り向けるのは企業戦略の一種です。

自社にとっては使用する予定のない特許でも、他社にとっては有用なケースもあります。

日本経済全体にとってみると、特許譲渡は埋もれていた特許を再び事業活動に寄与するという点で、有益と考えられます。

特許譲渡は、単なる負債整理のみでなく、他の視点で考えると有益かつ価値のある取り組みです。

攻めと守りの両面で知財ポートフォリオの最適化を実現する

攻めと守りの両面で知財ポートフォリオの最適化を目指すという視点は、事業戦略上重要です。

活用しない特許を譲渡して負債を解消する視点は、いわゆる守りの戦略といえます。

一方、自社にとって必要と考えられる特許を他社から購入する取り組みは、いわゆる攻めの戦略です。

特許譲渡で得たキャッシュを用いて他社の特許を購入するという取り組みは、まさに攻めと守りの両面で知財ポートフォリオを最適化する手法といえるでしょう。

知財ポートフォリオを最適化して事業効率を高めるため、ぜひ特許譲渡の実施を検討してみてください。

特許譲渡実行前に特許がもつ本来の価値や活用可能性を再検討する

活用していない特許の譲渡は、収益源として活用できるなど多くの利点が得られます。

しかし、一度譲渡した特許は一般的には自社の事業で使用できなくなるため、譲渡実行の是非は慎重に判断するほうがよいでしょう。

特許が本来持っている価値や事業活動における有用性を再度検討したうえで、譲渡を検討するのも大切です。

特許の価値や活用可能性について、以下の3つの視点で解説します。

  • 発明の無断盗用を防ぎ競合他社に対する優位性を確保する
  • 他社による特許権の取得を予防して収益源を確保する
  • ライセンス供与により安定した収益源として活用できる

特許の譲渡と、継続保持のどちらが自社にとって有利になるかを考える参考になると幸いです。

発明の無断盗用を防ぎ競合他社に対する優位性を確保する

特許を取得すると、他社が当該発明を無断で盗用できなくなります。

そのため、競合他社に対して優位性を確保して、事業戦略上有利になる点が特許の魅力です。

特許技術を用いて製造している点は、消費者に対してのアピールポイントとなるでしょう。

他社が同様の商品を販売していたとしても、特許を活用している点で消費者から選ばれる可能性が高くなります。

商品イメージや企業イメージの向上においても、特許を事業活動に取り入れている点は高く評価されます。

事業活動における優位性を確保する点で、特許が有効であるのは間違いありません。

他社による特許権の取得を予防して収益源を確保する

特許の取得および保持は、他社が同様の技術を開発して特許を取得するのを予防できます。

同一の研究開発内容は、先に特許取得申請をして認定されたほうに権利が与えられるため、特許の保有自体が他社の同分野における参入の妨げになります。

特許に関連する事業展開で得られる収益を確保する意味で、特許は重要な権利です。

一見すると事業活動に関係していない特許であったとしても、他社からの同分野への参入を防ぐ要となっているかもしれません。

特許を譲渡した後、他社に対する優位性を損なってしまい収益源を失ってしまわないよう、特許権の範囲や現状における役割を十分に精査しましょう。

ライセンス供与により安定した収益源として活用できる

特許は、自社で活用しなかったとしても、ライセンス供与によって安定した収益源として活用できます。

自社にとって事業上の価値がない特許であったとしても、他社にとって有用である場合は、高額のライセンス契約を締結して高額の収益源として活用できるかもしれません。

契約内容によっては、複数の企業とライセンス契約を締結して、それぞれの企業から安定した収益を獲得できます。

ライセンス供与は、特許権を保有する企業のみが行える手続きであるため、特許譲渡後は契約の締結ができなくなってしまいます。

特許譲渡とライセンス供与のどちらが自社にとってより有利であるのか、十分に試算を行って判断するほうがよいでしょう。

特許譲渡を戦略的に実施して知財ポートフォリオを改善しよう

事業活動において活用していない特許は、会社内の負債として残り、コストを生み続けています。

特許譲渡により、負債を整理して将来発生するコストを軽減するのは、有効な対応方法です。

特許譲渡により得られたキャッシュを、主要事業の活動に用いるのは、企業全体として効率性の向上につながります。

特許譲渡に加えて、他社の特許の購入も含めて検討し、自社の知財ポートフォリオの最適化を図ってみてはいかがでしょうか。

特許譲渡を実行する前に、会計および税務面への影響についての理解を深めておくのも大切です。

さらに、特許を手放す前にライセンス供与を含めた社内での価値および活用の可能性について、再度検討するのもよいでしょう。

特許譲渡を事業上の経営戦略的な位置付けで考え、効率的な企業の成長を目指してください。

この記事の監修者

・日本弁理士会所属(2018年特許庁審判実務者研究会メンバー)
・知的財産事務所エボリクス代表

弁理士としてスタートアップから大手企業はもちろん、
民間企業だけではなく、主婦や個人発明家、大学、
公的機関など『発明者の気持ち、事業家の立場』になり、自らの起業経験を生かした「単なる申請業務だけでない、オリジナル性の高い知財コンサル」まで行っている。

≪講師実績≫
2014年 大阪経済大学・知的財産法Ⅱ(意匠法)招へい講師
2014年 大阪経済大学・法学特殊講義(ブランド保護法(意匠法))招へい講師
2015年 大阪経済大学大学院・知的財産法(著作権法) 招へい講師
2015年 大阪経済大学・知的財産法(特許法) 招へい講師
2016年 大阪経済大学・知的財産法(著作権法) 招へい講師
2017年 日本弁理士会会員継続研修講師
2018年 デザインパテントコテンスト指導弁理士 姫路工業高等学校
2018年 公益社団法人日本インダストリアルデザイナー協会(JIDA)+日本弁理士会(JPAA)知的財産権セミナー2018
2018年 特許庁・審判実務者研究会2018・研究員
2018年 日本知財学会・第16回年次学術研究発表会 関連意匠制度の拡充に関する審議結果報告
2019年 日本弁理士会主催「令和元年度特許法等改正説明会」講師(意匠法担当)
2020-2022年 某IT企業 知財セミナー 講師

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