知財活用のイノベーションで差別化を

知財活用のイノベーションで差別化を

特許業界を変えた男「いきなり!ステーキ」社長の「発明力」のヒミツとは?

独自のビジネス手腕が話題に上がり、何度もメディアを賑わしてきたステーキレストラン「いきなり!ステーキ」。

実は、その生みの親である一瀬社長は、その類まれなる発想力によって、ジャンルを問わず様々な特許を取得しており、「発明家」としての顔も持つ。
数々の発明を生みだした社長のアイデアの泉には、一体どんなものが眠っているのだろう。

PROFILE

一瀬邦夫

KUNIO ICHINOSE

「いきなり!ステーキ」を中心としたレストランチェーンを運営する
「株式会社ペッパーフードサービス」の代表取締役社長CEO。

「ビジネスモデル特許」として業界に新しい風を吹かせた「ステーキ提供システム」の特許をはじめ、ジャンルを問わず多種多様な特許の持ち主でもある。

前代未聞。ステーキ提供システムの「発明」認定

オープンしてすぐに注目を集め、今では誰もが知っている通り、「いきなり!ステーキ」といえば、「肉のオーダーカット&立ち食いスタイル」。

客が指定した量を、店員が肉のブロックから切り分けて、これを気軽な立食形式のテーブルで焼き上げるというのが特長なのだが、実はこの独自の「ステーキの提供スタイル」、特許として認定されていることはご存じだろうか。

※現在「いきなり!ステーキ」は、ほとんどのお店が着席スタイルになっています

ビジネスモデル特許の好事例

これまで特許業界では「ビジネスモデルで特許を取得するのはとても難しい」といわれていた。

そんな逆風吹き荒れる当時の状況をものともせずに、一瀬社長は「ステーキの提供スタイル」の特許出願に挑戦。
裁判など紆余曲折を経る中で、「提供の仕組みを子細に記載して出願する」など様々な方法を試み、「いきなり!ステーキ」の「ステーキの提供スタイル」は、見事「特許」として認定に成功。実際に、特許取得は、競合参入を防ぐことにも大きく貢献したという。

この話、業界では、「ビジネスモデル特許を飲食業界で取得した希少な事例」として広く知られており、同様のケースにおける判断基準、参考事例として引用されることも多い。一瀬社長の情熱が、特許の歴史に新たな1ページを刻んだといえる出来事である。

「紙鉄鍋」とはこれいかに。新たな発明を出願中

「ステーキの提供スタイル」の特許取得のエピソードが表すように、一瀬社長はこれまでの常識に縛られず、パワフルに想いを実現していくことができる人物だ。

そして現在(2021年5月時点)、また新たな「発明」を認定させるべく、ある特許を出願中だという。

「紙鍋 + 鉄皿」の新たな提供スタイル

今度の特許出願も、ステーキと同じく料理の提供スタイルなのだが、今回のアイデアはステーキではなく「鍋」。

どんな「鍋」かというと、熱した鉄皿の上に紙製の鍋「紙鍋」を配して、鉄皿の熱によって紙鍋の具材やスープをコトコト煮込むというもの。

「紙鍋」と「鉄皿」をセットにした、その名も「紙鉄鍋」だ。

「あれ?紙鍋ってみたことあるけど…」と思われる読者もいるかもしれないが、社長が出願している「紙鉄鍋」は、従来のものとは似て非なるもの。

従来、「紙鍋」というのは、ふぐの店などで紙鍋の下から単純に固形燃料の火で熱するというものだ。
しかし、「紙鉄鍋」はさきほど説明したように、火を使わずに熱した鉄皿の余熱によって紙鍋を熱するというスタイル。鉄皿と鍋のスープを、紙鍋によって隔てることができ、熱した鉄皿にスープが直接ふれずに調理ができるため、鉄皿の温度がスープで冷めるのを防ぎ、高い温度を長時間保つことができるという仕組みだ。
すき焼きなどを調理するのにちょうどよく、たしかに食べ終わるまで、ずっとことこと具材が煮込まれている状態がずっと続き、食べていて実におもしろい。

「紙鍋 + 鉄皿」の新たな提供スタイル

この「紙鉄鍋」特許出願のきっかけは、自社が運営するレストランの新メニュー考案中にあった。

せっかく新しいメニューを展開するのだから、ただ料理内容が目新しいだけではなくて、これまで飲食業界にないやり方で、お客様を楽しませる新しいスタイルはないだろうか、と思案している際、「紙鍋+鉄皿」で提供する「すき焼き」を試してみることになったという。

試作を繰り返して上手くいくことがわかると、一瀬社長はすぐに、この提供スタイルの特許を取得するために動き出す。

聞けば、一瀬社長には古くからの友人で特許に詳しい方がいて、「特許」というものが身近な存在だったとのこと。
「特許の有効性・効果を把握している」からこそ、「良いアイデアが見つかれば、それを放っておかずに特許というカタチにして活用する」という発想につながるのだろう。

ニューノーマルを生みだす喜び

「ありそうでないけれど、良いアイデア。こういったものが新しい文化を生みだす」と話をしてくれた一瀬社長は、「自社のレストランでの展開も考えられるけれど、世間の大手飲食チェーンに注目してもらい、様々な応用をしてほしい」と、常に新しい何かを生みだしていく喜びを語ってくれた。

この「これまでにないニューノーマルを見出したい」という気持ち、この姿勢こそ、アイデアマン・一瀬社長を突き動かすエネルギーの元になっているように思えてならない。

知的財産を生みだす「発明力」の育て方

実は一瀬社長の特許エピソードは、これだけではない。

まず、飲食に関するものでいえば、「一定温度になるとアラームがなる加熱装置」が挙げられる。
これは、どの調理スタッフでも同じクオリティでステーキを焼けるようにと考えだしたもので、特許取得の発明品であることもさることながら、「いきなり!ステーキ」の海外展開の際に、その装置が大活躍。
社長が生みだした革新的な加熱装置があったからこそ、日本同等の美味しいステーキを海外で提供できる要因のひとつになったという。

「発明力」はどこから生まれる?

社長が生みだした特許は、それら料理の提供スタイルに限らず、カフスボタン、お箸、バイクのブレーキシステム、コイン収集用台紙など実に多種多様なジャンルで特許を取得しており、そのひとつひとつをご紹介すれば枚挙のいとまがない。
一体、数々の特許取得を成しえた一瀬社長の「発明力」は、どこから生まれてくるものなのだろう。

そもそも一瀬社長は、「特許をとろうと思って、何かを考えだしたことは一度もない」という。すべての特許は、普段の生活で「こんなものがあったらいいのに」、「どうやったらもっと便利にできるかな」と何らかの困りごとや不便な出来事があって、それを解決するために考えたものが実を結んだだけ。

つまり、「特許の前にまず課題あり」ということだ。有名な言葉に変えると「必要な発明の母」ということである。

「気づき」をチャンスに変えるために

日常におけるふとした困りごと、悩みというのは実は誰もが平等に持っているもの。

大事なことは、「その課題をそのままにしておく」のではなくて、「課題のポイントは何なのか」、「どうやったらクリアできるか」と考えることだ。
せっかくの「気づき」をチャンスに変えられるかどうかは、それを放置したまま、またいつもの日常に戻っていくのではなく、「気づき」にきちんと向き合って「吟味し、角度を変えて眺め、試すために行動する」ことができるかどうかにある。

走り続けることも人生だが、人生にはふと立ち止まることが必要なのだ。

しかし、言葉にするには簡単だが「日常の困りごとに対処して、アイデアを練る」という行為は、誰にもできることではない。「動かなくてもいいことに、人が動く」ためには、人を突き動かす強い原動力がなくてはならない。

アイデアの泉を枯らさない方法

一瀬社長が特許について語るときに印象的なのは「とても楽しそうに話をしてくれる」ということ。

それは、「これまでにないアイデアで、課題を解決する」ということが、社長にとって「楽しい」「喜び」というポジティブな感情につながるということを示しているように思われる。
一瀬社長のアイデアの泉にこんこんと発想が湧いてくるのは、その源泉にいつだって「課題のソリューションとなるキーを発見する喜び」があるからなのだ。

私たちが「発明家」に近づくためには、「気づき」「考えだす」ことを楽しむ気持ち、「見いだす喜び」という姿勢を大切にすることが大事であるように思う。
暮らしを取り巻く色々なモノゴトに興味を持ち、好奇心をささげ、自分の力でアイデアをうんうんいいながらもひねり出し、諦めずに何度も試し、途中で放り出さずに、何かしらの着地点にまで導いて、かたちに変える。
常日頃から、その姿勢を保ち続けることができれば、一歩ずつまた一歩ずつと、「発明力」が自然に育ち、新たなアイデアマンとして、これまでになかった発想に行き着き、特許というかたちで知的財産を積み重ねていける、素晴らしい世界への扉を開くことができるはずだ。